薄暗い室内の隅に置かれた寝台の上で、アウロラは頭から寝具を被り横たわっていた。
大巫女の部屋から戻るやいなや、それまで張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、急に身体が言うことをきかなくなったのである。 ともあれ、幸か不幸かこれなら外へ出るなという大巫女の言葉を守れそうである。 けれど、巫女を含め神殿勤めの全員に、祝宴へ出席するようにとお達しが出ていたはずである。「大丈夫かい? 何が食べられそうなら持ってくるけど」
扉が開き、廊下からわずかに明かりがもれる。戸口から顔をのぞかせたのは、言うまでもなくマルモである。アウロラはようやくのことで半身を起こし、わずかに首を左右に振った。 どうしてここに来てくれたのだろう、疑問に思いながらもアウロラは無理矢理に笑みを浮かべてみせる。「ありがとうございます……でも、今は何も……」
ご心配おかけしてすみません、そう言いながら頭を下げるアウロラに、マルモは苦笑を浮かべる。 そして僅かに目を伏せると、首を横に振った。「あんたが謝る理由なんて、これっぽっちもないよ。初めての儀式で、しかも闇の声を聞いちまったんだ。消耗するのは当たり前だよ」
それにしても怖い思いをしたねというマルモの言葉に、こらえきれなくなったのだろう、アウロラは顔を覆った。
「そう言っていただけるだけで、わたくしは……。それで、あの……」
アウロラが何を言わんとしているのかを理解して、マルモはふっと微笑を浮かべる。 そして、後ろ手で扉を閉めると寝台へ歩み寄り、その傍らの椅子に腰を下ろした。 そして、優しくその背をなでる。「祝宴のことなら心配ないよ。みんな疲労困憊でお祝いに出る余力は無いって、ちゃんと言っておいたから」
第一あんたは本当に寝込んでるんだし、主様も無理強いするような方じゃないから安心おし。 そう言ってマルモは笑う。